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静電型ヘッドホン用アンプ を新たに一から再設計することを決めまして、 その実現で大きなカギとなるのが部品点数の大幅削減と考えました。 前回製作と比較してよりシンプルな回路としたうえで、適切な保護回路を追加して安定動作を狙います。
そこでまず再検討するべきものがコア部品 SATRI-IC相当品モジュールでした。
電流入力のSATRI回路ですと入力バッファ回路が別途必要となります。これを電圧入力とすることで部品点数の削減が可能となります。
前提としてカレントコンベア回路 (CCII) によるゲイン調整方式は踏襲したく、電圧入力モジュール部品となるとバクーンプロダクツ社の HBK(I)-IC が該当します。
ただ HBK(I)-IC v1 現物およびそれらが使われた製品は所有しておりません。そもそもピン配置を踏襲する必要もないので自由に設計することとしました。
電圧入力のカレントコンベアモジュールとして、まず3種類を試作してみることにしました。
作業時期は、設計着手 2024年12月 、音出し 2025年7月 です。
ハイブリッドICモジュールは左から SHKM-LE、 SHKM-SE、 SHKM-UJ です。表面実装部品を表面に集めてリフロー製造しました。
カレントコンベア回路 ( Second Generation Current Conveyor / CCII ) ですが、
SATRI-IC v4 で使われている回路技術は Fabre-Normand translinear current conveyors と呼ばれているものと認識しています。
それ以外にもいくつか実装例が知られており、
左の図は Analog Devices 社の技術資料にあるカレントコンベア回路の概念図で、右の図はこれを最低限の素子で実装した場合の例です。
(電流帰還形オペアンプの)トランスインピーダンス段のようにも見えます。
HBK(I)-IC v1 の写真をみるとデュアルトランジスタ10個 (BJT x20)、抵抗4個で構成されているようです。
「MJ 無線と実験」のSATRI回路 技術解説記事、および、同誌 バクーンプロダクツ社の製品紹介記事にある推定回路図なども参考にして、
LTspice でシミュレーションを重ねて回路検討を進めました。
なお電流源はカレントミラー回路となりますがトランジスタを2~9個組み合わせて色々構成することができます。以下はその一例です。
SHKM-LE 回路図
小型化最優先で Nexperia TSSOP6 デュアルBJT を2種類(2NPN、2PNP) 使っています。足の配置が独特です。
入力部は本来 NPN-PNP BJT で作るべきですが妥協しています。カレントミラーは上記3のタイプです(ウイルソン+ベース保障)。
SHKM-SE 回路図
各メーカから出ている汎用品デュアルBJT SOT-23-6 (SOT-457、TSOP6、SC-74)を3種類(2NPN、2PNP、NPN-PNP) 使います。
なお各ジャンパは Jx1・Jx2 何れかをショートさせないと動作しません。
カレントミラーは上記1のタイプ「高精度ウイルソン」であればJ11・J21・J32・J42を使い、上記5タイプ「カレントミラー2段積み」ならJ12・J22・J32・J42を使います。
改善検討
上記 SHKM-LE、SHKM-SE で検証を行い、その結果を盛り込んで本命モジュールを改めて設計することとしました。
電圧入力モジュールということで、以前作った HDB モジュールに導入した
TI社の計測機用バッファBUF802のアイデアを再び盛り込むこととしました。
ただし入力JFETバッファは、超低雑音JFE2140デュアル品ではなく、超低雑音JFE150シングル品にしました。
SHKM-UJ 回路図
以前作った SCCM-UT と HBDモジュールの技術要素を取り入れて、TOSHIBAのローノイズBJTを多用して設計しています。
JFETのIdssバラツキがあるので可変抵抗で調整を行います。
カレントミラーは上記2のタイプです「高精度ウイルソン+ベース保障」。
パスコンMLCCは任意実装ですが、適切容量を付けると計測値(歪み率)で若干効果がありました。
カレントコンベアモジュールの中では唯一のFET入力であり、高い入力インピーダンスとすることができ、自分のような素人設計には向いているとも思います。
4層基板としていますが配線は表裏2層で済ませています。ノイズ対処もありGNDベタおよび多数ビア配置しています。なお内2層はGNDになります。
設計では自動配線 Kicad Auto Routing を繰り返し使って部品位置と配線を詰めていく手法で進め、最後に手配線で清書しています。
左から SHKM-LE、 SHKM-SE、 SHKM-UJ です。
作ったモジュールは自前のテスト基板を使って動作確認します。テスト基板は自作テスト基板と Analog Discovery2 および ソフトFRAplus を使っています。
まず入力0Vで出力が振り切れないことを確認します。
問題が無ければ正弦波を入れて正しく出力されることを確認。その後に詳細な確認を行っていきます。
各種測定後に最後に聴感で好みなど含めて総合評価を行いました。
(ちなみに計13個モジュール製造しましたが、12個は1発動作、残り1個は煙を吹いて損傷しました。
電源投入前にルーペ(x20)を使い入念な目視チェック、更にテスタで導通確認等も行っているのですが、自宅リフロー製造だとなかなか完璧とはいかないようです)
左のグラフは FRAplusによる周波数特性です。ぱっと見、4者はあまり違いが無いように見受けられます。
右のグラフはそれを拡大したものです。赤 SHKM-UJ はJFETバッファがあることで高い周波数まで伸びていることが分かります。
FRAplus による歪み率も計測しています。あまり精度が高くないようなので参考値です。
周波数特性についてはJFETバッファが付いている SHKM-UJ が圧倒しています。
とはいえ実際にプリアンプ基板にモジュールを刺して出音を聴き比べるとBJT素子の持ち味が出ていて聴感に違いがありました。
SHKM-UJはハイファイ的な鮮明な出音ですが少し聴き疲れする傾向があり、それに比べるとSHKM-SEの方がリラックスして聴けると感じました。
SHKM-LEはクセが無い感じです。
製造面からするとSHKM-LEのTSSOP6は実装が大変なので、SHKM-SEで使ったSOT-23-6あたりで作れると楽かつ製造品質も保てそうです。
あと初めてJFE150を使いましたがカレントミラー共用は相互影響が出てよろしくなかったかもしれません。
以前作ったバッファモジュールのように
JFE2140デュアル品をバッファ&電流源として使う方が簡素化&相互影響排除も出来て良かったかもしれません。
恐らく再設計する機会もあると思うので、次はこのあたりを考慮して後継ハイブリッドICモジュールを設計してみたいと思います。
以前作製したモジュールについて見直しを行いたいと考えていました。 実験用 SHKM-SE についてはジャンパ廃止と回路の改善、 通常利用 SHKM-UJ について回路再改善と耳当たりの良い音となるよう検討を進め、3種類のモジュールを設計しました。
手軽に使える開発作業用・実験用として素子数は最小限としています。作りやすく特性悪くなく、音の色付けが少ないと言う所を狙ったものです。
SHKM-SLE 写真
写真の左側の緑色ハイブリッドICモジュールがSHKM-SLEです。
SHKM-SEの作り直しということもあり、電子部品も既存 SHKM-SE から取り外して再利用しています。実験用だし節約します。
SHKM-SLE 回路図
回路は前述 SHKM-LE と同じですが、基板サイズ・ピン配置や使う部品は SHKM-SE と同じです。
トランジスタはNPNデュアル、PNPデュアル、NPN+PNPの3種類を使います。
半導体がBJT SOT-23-6サイズなので比較的作りやすく、入力バッファがNPN-PNPタイプで熱結合面では望ましいものです。
カレントミラーは右図タイプ3「ウイルソン+ベース保障」です。(BJT 4個なら右図1「高精度ウィルソン」より好んで選んでいます)
SHKM-SLE 基板デザイン
4層基板としていますが配線は表裏2層で済ませています。内2層はGNDになります。
基板サイズと部品は SHKM-SE と変わらないので、該当箇所だけKicad回路図を見直して、自動配線 Kicad Auto Routing を使ってデザイン調整しました。
SHKM-SLE 製造
リフロー製造となりますが、BJTピン間隔が0.95mmなので比較的容易であり、複数個製造して全て1発で成功でした。
自宅製造なのでハンダブリッジは0ではありませんが修正も容易でした。
SHKM-SLE 計測
作ったモジュールは自前のテスト基板(自作テスト基板 + Analog Discovery2 + ソフトFRAplus)を使って動作確認します。比較詳細は後述します。
計測して比較するとなかなか良好だと思いますが周波数特性等は他と大差ありません。
SHKM-SLE 感想等
出音も聞き疲れしないけど描写力も悪く無くて、とにかくバランス良い出音だと思います。今後も基準として長く使っていけそうです。
BJT使用個数も最小限だし作りやすさ含めて十分ですね。
既製品 TI OPA861 ( OPA860 ( OPA660 後継品 )) にはカレントコンベア(OTA/CCII)を含んでおりこれをそのまま使います。
モノリシックIC・高精度市販品を調査・比較検証することで得られるものが有ると考えます。
なお電圧の制限があり、電源電圧±5Vで使用する必要があり正負三端子レギュレータを使用することとします。
なお OPA861 (OPA860) はデータシートによると全端子に入出力保護ダイオードがあるらしいので外付けする必要はなさそうです。
TI OPA860のPSpiceモデルは過去に公開されており WebArchive から入手して、
ネット上の情報をもとにライブラリ(subcktテキスト)内の端子等を少し手直しするとLTspiceシミュレーションで利用できました。
ただし電圧制限があり、電源±5Vを3端子レギュレータで生成させていたり、出力が片側(CO+)のみとなっていたりフルスペックではありません。
ヘッドホンアンプなど低電圧用途限定となっています。
SHKM-OP6 写真
写真の右側の黄色ハイブリッドICモジュールがSHKM-OP6です。
SHKM-OP6 回路図
とてもシンプルな回路になりました。各ICにはデータシートに従ってMLCCパスコンを載せておきます。
なおOPA860ではなく、回路省略されたぶん廉価なOPA861を利用します。
SHKM-OP6 基板デザイン
配線もあまり無いので2層基板にしました。手作業が早そうなのでリフロー用ステンシルも発注省略。ピン配置は他SHKMと同じですが未使用ピンがあります。
SHKM-OP6 製造
工具は SMDクランプと精密ピンセットを使いました。久々に作るのが楽でした。
SHKM-OP6 計測
FRAplus + Analog Discovery2 にて計測を行いました。
周波数特性は SHKM-OP6 と SHKM-SLE は大差ありませんでした。拡大すると分かりますが同傾向でして、JFETバッファがあるSHKM-UJだけが伸びています。
実は周波数特性ですが、モジュール外にある設定抵抗の方が影響度合いは大きかったりします。
モジュール出力信号は抵抗の大きさに依存するので、試しにCinに接続する設定抵抗、およびCoutに接続するゲイン調整抵抗ともに 1kΩ→90Ω に下げると一気に10MHz超に伸びます。
ただ歪み率も劇的に悪化しますし、ボリューム調整用VRの調整範囲(選択肢)も少なくなるので低抵抗設計は推奨できません。
これまでの設計においてもCin設定抵抗は小さくても820Ω位に留めています。ちなみに設定抵抗を大きくし過ぎるとS/N悪化要因になるので程々が肝要です。
歪み率ですが左グラフ SHKM-OP6 は桁違に悪い?!。OPA861 (OPA860) は等価回路をみると基本的なカレントミラー、
SHKM-SLE の ウイルソンカレントミラー+ベース電流補償 と比べると電流コピー精度が悪いということだと想像しています。
これらカレントミラー回路は信号折り返しやバイアス電流供給などIC内で複数個所で使われていますので、このような大差になったのかもしれません。
なお右グラフは他モジュール同士は大差ありませんが、これは計測装置 Analog Discovery2 の測定限界かもしれません。
SHKM-OP6 感想等
出音については思ったほど大差はなくて、しっかり聞き比べると細部が甘いと感じる音でした。
音質で選ぶことは有りませんが、もし最小基板サイズ最優先でゲイン調整タイプ超小型ヘッドホンアンプ作るなら選択肢として有りかもしれません。
モノリシックIC利用 SHKM-OP6 がガッカリ性能であったため、(通勤電車で通勤中に)別の改善を模索することが続きました。
ここでモジュールの構成要素であるカレントミラー回路自体の改善はこれまで散々行って比較検討してきたのでそれ以外を考えました。
S/N向上を色々検討しているとき、アキュフェーズ社 MCSといった信号加算を思い出しまして回路検討してみました。
ここで回路素子のノイズ成分や歪みは回路独特あるいは個別素子由来のもので、
出力信号を合成することでノイズ成分等を打消しあって結果的に信号成分の精度向上につながるというものです。
オーディオ業界ではDACチップの並列化というのは昔から事例が多いですし試してみることに。
SHKM-MCS 写真
今回のハイブリッドICモジュールですがトランジスタ合計52個あります。
以前作った SCCM-UT の72個よりも少ないです。
SHKM-MCS 回路図
回路を並列にするわけですが、どの部分を並列にするかで複数案検討できました。
今回はモジュールの入口と出口で分けることとし、
3並列にした回路をバランス良く動作させるために抵抗を挟みます。
LTspiceシミュレーションでは入力Vin側抵抗は小さくても問題ありませんでしたが、Cin側抵抗は47Ω以上無いと(BJT素子個体差により)偏りが出てしまうようでした。
今回は手持ちの100Ωにて入力・出力の並列回路の信号バランスをとることにしました。
カレントミラーは右図タイプ3「ウイルソン+ベース保障」です。
SHKM-MCS 基板デザイン
4層基板としていますが配線は表裏2層で済ませています。内2層はGNDになります。
自動配線 Kicad Auto Routing を繰り返し使って部品位置を微調整してデザイン最適化を進めました。小基板にアナログ回路詰め込むならこの方法が楽ですね。
SHKM-MCS 製造
表面実装トランジスタは TSSOP 0.65mm ピッチ デュアルBJT でして、1モジュールあたり26個もあって正確に実装するのは結構大変です。
もちろん片面リフロー実装できるように基板デザインしていますが、
自宅はんだリフロー作業ではブリッジ(ショート)したり足浮いてハンダ接合できていないことも0ではありません。
ここでTSSOP級になるとルーペ x10倍では細部が分からないことがあり、かといってルーペ x20倍で隅々までチェックするのも大変疲れますし限界があります。
個人的にはデジタル顕微鏡(中国製・廉価品 組合せ)を使っていまして、高倍率Cマウントレンズも比較的廉価なものもあります。
レンズ先端にLED光源を付けており明るく鮮明な映像をPCモニタ表示でき、作業は大変楽になります。
評価目的でモジュール3個製造したのですがチェックにて2個問題がありました。1つはサイン波が崩れているもの、もう1つは歪み率が1桁悪いもの、どちらも厄介ですね。
実装不備で正しく動作しないモジュールについて調査して修正することにします。
まず原因個所を絞り込みますが、具体的な方法としては、(計測用Analog Discovery2にて) 信号電圧 2V サイン波 1KHz 流しつつ Dual BJT 26個の各端子をオシロスコープで1つずつ観測します。
カレントコンベア回路は電圧信号および電流信号もありますが、電流信号でもオシロをAC測定にすると数十mVの電圧として信号観測できます。
今回は3並列回路でそのうち1つが信号電圧が半減かつ歪んでおり、特定した表面実装BJTをハンダ付け修正して対処することができました。
SHKM-MCS 計測
FRAplus + Analog Discovery2 による測定結果です。周波数特性および歪率で比較します。
何れも基準 SHKM-SLE と比べ今回 SHKM-MCS は差異ないように見受けられます。
とはいえこれは計測装置 Analog Discovery2 の測定限界かもしれません。相対比較では大差は無いと理解しました。
出音はなんというか S/Nが上がった音ということは無くて、押しが強い感じの音がします。
使用部品 matched Dual BJT の Nexperia PMP4201Y/PMP5201Y のベース保障ウイルソンミラー回路構成では、
これまで数種類作っていますがスキッとした音の傾向に仕上るのですが、これはそうではありません。
出音としては尖ってはいるので、良い悪いではなく好みの差もあるかもしれません。。
とはいえ、それよりなによりTSSOP部品での製作は1/3以上も1発目で製造失敗して、稀に色々調査するも修正できなかったことも過去あり、
散々な実績結果なので正直な所は製造大変なので避けたいのですよね。
検証用ヘッドホンアンプ (プリアンプ+GaNバッファ) で音を確認してみます。音の感想ですが、CCII x3パラで雑音成分をお互い打消してS/Nを上げる狙いでしたが、 ところが実際に聞いてみると肝心の音は繊細さや透明感が後退した感あり多少劣ります。 妙に押しが強い音となり、ガヤガヤと静かさに欠ける音になったように感じます。 パラレルにしても音が良くなるわけではありません。 むしろパラレルにしたことで音の響きに雑味が増えて繊細な雰囲気が失われ、個人的に音が悪くなったと感じたようです。
期待通りにはなりませんね。でも今回設計でも色々な知見が得られ、非常に良い経験となり挑戦してみて良かったと思っています。
検討中です。
複雑大規模な回路ではなく、SHKM-SLEの聴きやすさと特性の良さを進歩させて自分好みの実用性高いモジュール部品を設計したいと考えています。