新プリアンプ基板
(HBK(I)-IC相当品使用)

SQ雑記帳
部品サブプロジェクト


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サブプロジェクトについて

はじめに

静電型ヘッドホン用アンプ を新たに一から再設計することを決めまして、 部品点数の大幅削減を目的に新たにハイブリットICモジュール SHKM を設計しました。

SHKM モジュールについて複数種類作っておりますが、 今後開発を進めるにはSHKM モジュールを1つ選定する必要があり、 そのためには聴感テストとして自分がどの音が好みか?確認しておく必要があります。 このような用途には簡易ヘッドホンアンプが向いており、 テスト用を兼ねてプリアンプ兼ヘッドホンアンプのプリント基板を用意することとしました。

また以前のプロジェクトで運用断念した GaN FET (GaN HEMT) アナログアンプについても新しい回路で実現性検証を追加で行っています。

コンポーネント:PRIAMP-HK (プリアンプ基板 v3)

概要

以前製作した PRIAMP-W (v2) と同じ考えで製作したプリアンプ基板 PRIAMP-HK (v3) です。
作業時期は、設計着手 2025年2月 、音出し 2025年7月 です。

ヘッドホンアンプは簡易的なものになります。 なお出力部分の部品の使い分けで用途が変わるようにしています。

写真

左の写真は基板両面、右の写真はモジュール部品を搭載した状態です。
ハイブリッドICモジュール SHKMは2種類のピン配置があり両方に対応させています。 出力バッファ用にもモジュール HBD/HBC 等が1個必要になります。
  プリント基板 PRIAMP-HK   プリント基板 PRIAMP-HK

基板2枚と電源回路にて、簡易的なヘッドホンアンプとして使うことができます。聴き比べるとモジュール部品の音の違いはそこそこわかります。
なおオシロスコープを使って事前に実装不備で信号に問題無いか?、発振していないか?など確認を済ませておきます。
  プリント基板 PRIAMP-HK   オシロスコープ

回路図

「MJ 無線と実験」のSATRI回路 技術解説記事、および、同誌 バクーンプロダクツ社の製品紹介記事にある推定回路図なども参考にして、 LTspice でシミュレーションを重ねて回路検討を進めました。

全体
SHKMモジュール(電圧入力カレントコンベア)バッファモジュール(HBC/HBD) を使います。 ここでCinは反転入力となるのでDCサーボは再反転する必要があります。電流源はLM334としていますがCRD(1~3mA)も可です。
  回路図 PRIAMP-HK
音量はゲイン設定抵抗により決まり「Vout = Vin × (可変抵抗 ÷ 設定抵抗)」となります。 回路図でいうと設定抵抗はRG(表面実装RG1またはリードRG2)とDCサーボの抵抗R23の並列合成抵抗値、 可変抵抗はJ2に接続するボリュームです。
具体的には、ヘッドホンアンプ用途だと減衰させた方が音量調整の使い勝手もよいのでRGとR23には10kΩ(合成抵抗5kΩ)、J2(VR)には2連Aカーブ10kΩ抵抗など。 パワーアンプ等に接続するプリアンプ用途で増幅させたい場合はRGには1~2kΩ(合成抵抗1kΩ前後)、R23には2k~10kΩ、J2(VR)には2連Aカーブ10kΩ抵抗など。

回路の選択
左の図がプリアンプ用途、右の図が簡易ヘッドホンアンプ用途です。
  回路図 PRIAMP-HK   回路図 PRIAMP-HK

基板デザイン

2層基板としてデザインしています。個人的にはGNDベタおよびビア多数といういつも通りの方針としています。
  プリント基板 PRIAMP-HK
(ネット上に多数ある自作事例だとアンプ基板はGNDベタとしないことが多い様ですが、 個人的にはプリント基板でベタ多用してノイズや不安定さに困ることが少なくなった経験があります。 1点アースはリターンパス要因も複雑であり厳密に設計するには色々難しく、素人の自分にはこちらがあっています。)

結果など

計測ツール(Analog Discovery2 + ソフトFRAplus)を使って本基板単体の性能をみてみます。
周波数特性ですが問題なさそうです。歪み率は掲載省略。
  周波数特性 PRI
拡大したもの。
  周波数特性 PRI拡大
ICモジュールは特性が良かった SHKM-UJ および HBD v1 を使用しています。 SHKM-UJ単体は400KHz位までフラット、HBDも3MHz位まで大丈夫でしたが、プリアンプを構成すると結構落ちます。 発振防止意図もありますし音楽を聴くうえでは問題はありません。
(なお留意点として設定抵抗値で周波数特性は変わるので利便性考えずにRGを半減など小さく抑えれば多少伸ばすことは可能です。 ただしJ2可変抵抗も同じく小さくする必要があり、市販可変抵抗10kΩを使っている場合は調整可能範囲が狭くなります。)

本基板の目的が複数ICモジュールの比較検証用途であり、出音の違いを確認することができて必要十分です。
簡易ヘッドホンアンプ用途だと出力素子BJTの音の特色がでまして、個人的にはちょっと明瞭すぎる音の感じでした。 本基板はプリアンプ利用がやはり適していると思っています。

技術検証 コンポーネント:GAN-HPBA v1 (ヘッドホン用バッファアンプ回路)

概要

GaN FET (GaN HEMT) を使用したヘッドホン用バッファアンプ基板についての技術検証実験が目的となります。
作業時期は、設計着手 2026年1月 、音出し 2026年5月 です。

以前技術検証で製作した静電型ヘッドホン用アンプ v2 においてGaN素子では長期安定動作できず実現は正直諦めていました。

しかし2025年12月、市販GaNアナログアンプが販売されました。iBasso Kunlun という据え置き型ヘッドホンアンプです。 実はそれより前の2025年8月、DAP向け拡張カード iBasso AMP17 という製品がアナログGaNアンプとして先行して発売されています。 個人的に断念したGaNアナログアンプの安定動作を実現して販売にこぎつけたということで非常に興味が湧きました。

AMP17拡張カードの高精細写真を見ると Nexperia E-mode GaN HEMT (刻印7RO ELBE)だと分かりました。 GAN x8搭載されており、DAP低消費電力かつ低電圧もありBTL駆動でしょうか。 また、iBasso Kunlun には 2SB1185 x8が搭載されていることが分かりました。
小型ヘッドホン駆動の低消費電力HPAであれば電源電圧±15V位にてGaN焼損問題も回避でき、どちらの製品もGaN HEMT損失抑えて焼損・破損防止設計していると想像しています。 素子 GaN FET + BJT にてcascodeだと思われます(あるいは異種ダーリントン構成?)。

  GaN e-mode datasheet   GaN e-mode SOA

GaN素子のデータシートを確認すると、AMP17採用 GAN7R0-150LBE ではSOA図にDC表記があります。 以前製作で使った Transphorm社 (現Renesas) では見かけなかったものです。年々、素子も進化しているということでしょうか。 同E-mode GANだとinfineons製もありSOAにDC記述があります。 例えば±180Vなら2mA、±18Vでも30mA以下に抑えつつ、とにかく放熱!することで安定動作できるのかもしれません。
ただ個人的には e-mode GaN についての設計経験・実績がなく、とりあえずヘッドホンアンプ回路で検証をしてみることにします。 また複数検討していた新しいGaN素子向け保護回路の検証も合わせて実施することにしました。

写真

左の写真は今回製作した基板です。モノラルなので2個必要となります。
右の写真は実際に出音を確認している状況です。前述のプリアンプ基板2枚、 今回のバッファーアンプ基板2枚、電源回路、それらをケーブルで繋いでいます。 テスト用途なのもあってゲイン調節ボリュームは素の2連Aカーブ、ヘッドホンには耳掛け型 ATH-EW9 を使っています。
  GaNアナログアンプ基板   GaNヘッドホンアンプ全体

写真左は今回のメインの半導体素子 Nexperia GAN7R0-150LBE (GaN HEMT normally-off E-mode) 。 3.2mm ×2.2mm の小さい半導体で、 端子が裏面のみの LGA (Land Grid Array) なのでリフロー製造が必要となります。
写真右は実際のハンダのリフロー作業です。これまでの経験を元に温度管理しつつ作業を進めましたが、 基板サイズが自分が作ったこれまでの中では最大であり特にクリームはんだを均一に塗るのに苦戦しました。 今後も続けるならば手順改善が必要になりそうです。
  GaN Nexperia GAN7R0-150LBE   はんだリフロー作業

回路図

今回初めて E-mode GaN (Enhancemanet mode normally-off) 使うのでその実機検証が主目的となります。 LTspiceシミュレーションでは一見は動作できているようですが、実際に作って通電してみないと本当に問題無いか分かりません。 恐らく実装上の課題が複数見つかると予想しています。

技術検証の実験用ということで、多数の実績がある SATRI V6.2 回路方式の出力バッファアンプを設計してみることにしました。 V6.2回路は図上部にバイアスサーボ回路、図下部にDCサーボ回路があり、 バイアスをVR設定値により一定に保ちつつ出力DCオフセットも抑えられる便利で扱いやすい回路です。 GaNにはn型しかないので準コンプリメンタリ構成として、JFETと組み合わせて単純構成を実現しています。
なおこのバッファアンプ回路はゲイン1で音量調節が出来ないため、前述のプリアンプ基板を前段に取り付ける想定です。

  回路図 GaN-HPBA   LTspice GaN-HPBA

出力素子 GAN7R0-150LBE は低周波アナログ利用だとあまり電流を取り出せないと予想されるので ヘッドホンアンプあるいはプリアンプが精々となります。 あとV6.2回路は音が出るまで3分位かかる点も留意が必要です。

もう一つの目的として新しい保護回路の検証があります。 以前製作した静電型ヘッドホン用アンプD-mode cascode GaN FETでは3つの保護回路を組み込みましたがGaN焼損を防ぐことができませんでした。 前回の焼損・破損多発を踏まえて特に過電流保護 (OCP:OverCurrent Protection) を念入りに検討を重ね、更に2つ追加して5つの保護回路を組み入れています。
主たるものが回路図 TH1・TH2 であるPTCサーミスタ、村田製作所の製品だとポジスタという商品名です。 過電流を検知して動作するリセッタブルヒューズとして便利に使えます。なお平常時(保持電流以下)もそこそこ抵抗値がある点は留意が必要です。 またサーミスタ脇にLEDを並列配置しており、過電流保護トリップ動作したときに容易に分かるようにしています。
(※個人的にネット上の自作オーディオ系のGaNアナログアンプ事例において、 半導体素子を組み合わせた過電流検出タイプのGaN保護回路でうまくいった事例を見つけることができませんでした。 そのこともあり単純かつ確実な効果が期待できるPTCサーミスタを選定しました。)

基板デザイン

2層基板としてデザインしています。 表面実装 GaN FET 基板放熱のため両面ベタパタンをスルーホール多数で熱伝導させています。
設計では自動配線 Kicad Auto Routing を繰り返し使って部品位置と配線を詰めていく手法で進め、最後に手配線で清書しています。
  プリント基板 GaN-HPBA
(ただ GAN7R0 のLGAは放熱に向いていないようで広い放熱パタンは不要だったかもしれません。 GAN7R0は、一般的なトランジスタ形状 TO-252・TO-220・TO-3P のようにドレイン・コレクタが放熱パッドを兼ねているモノではないようでした。)

検証結果など

E-mode GaN は実装実績が無かったので動作確認は慎重に進めました。
まず電源投入する前に電源ピン間の抵抗値測定、各所の対GNDとの抵抗値測定、 GaN素子についても各端子間の抵抗値を計ってショート有無・ハンダ未接続となっていないかを徹底して確認しています。 ここで保護ダイオードについて汎用フットプリントを使ってることもあってリフロー時にズレて端子が浮いている所が数か所ありハンダゴテで修正しました。

次に電源を投入して確認しますが、まずは入力0Vにして (入力とGNDショート) 出力に妙な電圧が出ないことを確認、 次に1kHzサイン波を入れて確認、その後に高い周波数および小さい信号を入れて発振有無等を確認しています。 その後、繰り返しの電源オンオフ、十数分放置など複数観点で安定性含めて確認を進めます。なお確認作業にはオシロスコープが必要になります。
  動作確認オシロ
想定通りの信号が出力されていることから主目的は最低限は確認することが出来ました。ノーマリーオフ型GaNが使いやすく品種が増えるのも納得です。

次に計測ツール(Analog Discovery2 + ソフトFRAplus)を使って本基板単体の性能をみてみます。 なおSATRI V6.2回路なのでサーボが安定するまで3分超待ってから計測します。
周波数特性ですが、1MHz超までフラット、カップリングコンデンサが入ったAC結合ですが問題なさそうです。歪み率は掲載省略。
  周波数特性FRA
なお実際に使用するときにはプリアンプを前段に接続するため、周波数特性はプリアンプで決まることになります。

新保護回路の動作検証ですが、実は上記の動作確認中に10回ほど作動してしまいました。 特にPTCサーミスタの過電流保護がトリップ動作すると LED2・LED3 が点灯します。
  過電流保護
このPTCサーミスタ保護ですが、ヘッドホン用途ということでトリップ電流 100mA 品を選定しています。 なおサーミスタ素子ですが電圧・サイズ・保持電流・トリップ電流そしてショップ在庫まで踏まえるとそんなに選択肢は無いので割り切りが必要です。

前回製作の静電型ヘッドホン用アンプにおいてGaN素子(Cascode D-mode GaN-FET)を数回焼損させているのですが、 大型ヒートシンクは辛うじて触っていられる温度(非接触温度計で50℃台)だったと記憶しています。
今回は十分安全値を見ていてもトリップ動作することもあり、もう少し細かく作動条件を見ていくことにしました。

バイアス電流の設定値、GaN素子の感覚温度、保護回路作動については次の通りです。 なお動作確認にはインピーダンス64Ωのヘッドホンを使っています。

50mA辛うじて手で触っていられる熱い温度、音楽聴いていると保護回路発動
25mA多少温かい温度、ただ音楽のサビ大音量とかで極々稀に保護回路発動
12mA発熱を感じないレベル、今のところ安定動作
上記以外電源オフの時に稀に瞬間的に保護回路動作することがある

トリップ電流が100mAなので保持電流はそれ以下ですから設定50mAはそもそも少し無理があります。 ただ余裕みたアイドリング電流25mAにおいても曲のサビというか、そういう部分で動作することが複数回ありました。 その後、発熱を感じないレベルということで12mAまで下げるとそれ以降は保護回路発動することはありませんでした。 ヘッドホン(スピーカー)は公称インピーダンスの通りの特性ではないので電流値は変化するのは想像できますが、 少なからずGaN素子の温度依存性もあると予想しています。
電源オフのとき作動するのはサージ電圧か負荷ヘッドホンの影響か分かりませんが、 そのほか想定されるのはサーボ電圧が電源オフ時に大きくブレることは(SATRI回路事例では)以前の製作から多数心当たりあるのでそれかもしれません。 サージ保護ダイオードを複数用意しているので電源オフは許容することとします。
(なお Nexperia GAN7R0 のLGA端子は放熱パッドが出ているというわけではなさそうで、放熱についてはあまり考慮されておらず、 そもそも発熱させてよい素子ではないようです。なのでアナログ増幅用途ではバイアス電流を小さく抑える調整が正解だと思いました。)

今回の技術検証ですが、知見が多く得られ挑戦して良かったと思っています。
近年のGaN FETは当初よりも確実に進歩しており、データシートみるとSOA (Safe Operating Area 安全動作領域) に DCの表記もありますが、素子の自己発熱によりアナログ電気特性はとりわけ大きく変わると思われます。
素子の十分な放熱設計は大前提として、データシートの SOA Tc=25℃ ではなくTc=125℃ まで踏まえて、 更に素子を熱く感じないアイドリング電流までに抑えるよう設計しなければならなさそうです。 放熱に優れた放熱パッド付(ソース露出)のパッケージ素子を前提に考えることも必要そうです。

前回製作の静電型ヘッドホン用アンプにおいてもゲート抵抗の挿入、および、ツェナーダイオードでゲートソース間に入力電圧クランプしており、 更に過電圧保護ダイオードを追加し、サージ電圧について複数対処したつもりですがそれでもGaN焼損・破損防止の保護回路としては不十分でした。 対策不十分であった大きな要素が恐らく素子温度で、低周波のアナログ利用においては温度依存性に特に注意が必要なのだと思われました。 GaN FET(HEMT)はMOS FETと似た使い方できますが別物ということを再認識しないとダメですね。
(※今回は保護回路検証兼ねて厳し目にPTCサーミスタをトリップ電流100mAとしましたが実際にはもっとトリップ電流値を大きくて良さそうです。 とはいえ仮にスピーカーを駆動させる場合、小音量ニアフィールドリスニングとかではない場合、 損失押さえて電流稼ぐならばGaN素子を複数パラとかにするしかないかもですね。)

なお試作・技術検証だけでは勿体ない心地いい出音だったりしました。やはりGaNの出音は自分好みです。 個人的に何台も作ったヘッドホンアンプの中では一番だったかも知れません。もし機会があればちゃんと作っても良さそうだと思っています。
最後に、実は GAN7R0 は高すぎではないものの安くもありません。 E-modeノーマリーオフ品で実装しやすいTO252パッケージ等で半額以下のものが複数あるようですし、もし次回があるなら素子選定からやり直したい所です。